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東京高等裁判所 平成10年(ラ)887号 決定 1998年7月08日

主文

一  原決定を取り消す。

二  相手方の本件申立てをいずれも棄却する。

三  手続費用は、原審及び当審を通じて、相手方の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

本件抗告の趣旨は主文と同旨であり、その理由は、原決定の手続には当事者の特定について瑕疵があり、また、抗告人太郎は、相手方の買受け後に、相手方と売買契約を締結した本件不動産の引渡しを受けているので、原決定は違法であるというものである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によると、相手方は、本件不動産を一一五三万九〇〇〇円で落札し、平成九年七月三日に売却許可決定を得、同年一一月八日に代金を納付してその所有権を取得したものであるが、この間の同年九月二九日、抗告人太郎に対し本件不動産を売り渡したこと、その契約の内容は、代金一六〇〇万円、うち手付金一〇万円、残代金は移転登記完了までに支払う、不動産の引渡しは同年一二月一五日までに現状有姿のまま行うというものであったこと、相手方は、同抗告人が残代金を支払わないとして同月一九日付けの書面で右契約を解除する旨の意思表示をしたが、右書面中には、同抗告人が右契約により本件不動産の簡易の引渡しを受けた状態となっているとの記載があること、及び抗告人花子は抗告人太郎の妻として、抗告人会社は抗告人太郎からの賃借人として本件不動産を占有していることが認められる。

2  右事実関係に照らすと、相手方は、本件不動産を競売によって買い受けた後、抗告人太郎にこれを売り渡し、その際、占有改定によりその占有を取得した上、改めて簡易の引渡しによって同抗告人に引き渡したものと認められるのであり、このことにより、相手方が競売手続により買い受けた際の占有状態は既に解消し、抗告人らは相手方と抗告人太郎との売買契約に端を発する新たな権原に基づいて本件不動産を占有しているものと認められる(なお、相手方は、その後売買契約解除の意思表示をしているが、仮に右解除が有効であっても、その遡及効果によって右のような占有状態の変更といった事実状態が覆滅されるものではない。)。

このように競売手続による買受人が当該不動産を任意に引き渡すことにより、新たな占有状態を作出した以上、同人はもはや民事執行法に基づく不動産引渡命令を申し立てることはできないというべきである。

3  したがって、相手方の本件申立てはいずれも理由がなく棄却すべきものであるから、これと異なる原決定を取り消し、本件申立てをいずれも棄却することとし、手続費用の負担について、民事執行法二〇条、民事訴訟法六七条二項本文、六一条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 町田 顕 裁判官 末永 進 裁判官 藤山雅行)

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